• コラム

「きみは、ほんとうはいい子なんだよ!」

「どんな子も、生まれたときには、いい性質を持っている。それが大きくなる間に、いろいろな、まわりの環境とか、大人たちの影響で、スポイルされてしまう。だから、早く、この『いい性質』を見つけて、それをのばしていき、個性のある人間にしていこう」


これは、『窓ぎわのトットちゃん』の著者黒柳徹子さんが敬愛しておられる、小林宗作校長先生のお言葉です。小林先生がつくられたトモエ学園は作中にあるように東京大空襲の戦禍にあい、焼けてなくなってしまいました。あとがきには、こう書いてあります。


「こうやって、書き出してみますと、若い頃は、ただ、楽しい思い出として残っていたトモエが、いまごろになって、

『ああ、小林先生は、こういうつもりだったんだ!』とか、

『先生は、こんなことまで考えていて下さったのか…』、とわかってきて、そのたびに、驚き、感動し、ありがたく思えるのです。私のことでいえば、『君は、本当はいい子なんだよ』、といい続けて下さった、この言葉が、どんなに、私の、これまでを支えてくれたか、計りしれません。もし、トモエに入ることがなく、小林先生にも逢わなかったら、私は、恐らく、なにをしても、『悪い子』、というレッテルを貼られ、コンプレックスにとらわれ、どうしていいかわからないままの、大人になっていた、と思います。」


また、徹子さんは、お母様に心からの感謝を伝えたいと思います、と書いておられます。


「それは、『退学になった』、という事実を、私が二十歳過ぎまで話さないでいてくれた、という事です。

二十歳を過ぎた、ある日、母が、

『あのとき、どうして小学校かわったか、知ってる?』と聞きました。私が、

『ううん?』というと、母は、『本当は退学になったのよ』、と軽い感じで言いました。

もし、あの一年生のとき、

『どうするの?あなた、もう退学になっちゃって!次の学校に入ったって、もし、また退学にでもなったら、もう行くところなんか、ありませんからね!』

もし、こんな風に母にいわれたとしたら、私は、どんなに、みじめな、オドオドした気持で、トモエの門を、あの初めての日に、くぐった事でしょう。そしたら、あの、根の生えた門も、電車の教室も、あんなに、楽しくは見えなかったに違いありません。こういう母に育てられた事も私は幸せでした。」


黒柳徹子さんのご活躍を知らない方は、今、この日本には、ほとんどおられないでしょう。若い時、NHKの専属でお仕事をされていた頃から、引っ張りだこでお忙しくしてらしたということですし、私は、子どもの頃毎週楽しみにしていた、音楽番組『ザ・ベストテン』の久米宏さんとの司会を懐かしく思い出します。そして、ご存知『徹子の部屋』は、たくさんの各界の著名人をお迎えし、おひとりおひとりのユニークな人生を描き出す<絶妙な聴き手>徹子さんの優しい眼差しに溢れています。


小林先生に初めて会ったトットちゃんは、『さあ、なんでも、先生に話してごらん。話したいこと、全部』と言われて、朝の8時ごろからお昼になるまで、喜んで話し続けたそうです。なんと4時間も!


「そして、どう考えてみても、本当に、話は、もう無くなった、と思ったとき、先生は立ち上がって、

トットちゃんの頭に、大きくて暖かい手を置くと、

『じゃ、これで、君は、この学校の生徒だよ』

そういった。……そのとき、トットちゃんは、なんだか、生まれて初めて、本当に好きな人に逢ったような気がした。だって、生まれてから今日まで、こんな長い時間、自分の話を聞いてくれた人は、いなかったんだもの。そして、その長い時間のあいだ、一度だって、あくびをしたり、退屈そうにしないで、トットちゃんが話してるのと同じように、身をのり出して、一生懸命、聞いてくれたんだもの。」


ユニセフ(国連児童基金)の親善大使として世界中の子どもたちのために飛び回っておられるお姿には、ご両親とのふれあいや小林校長先生との出逢いをベースとして培われた深い共感性や広い視野、そして卓越した行動力を感じ取ることができます。1981年に創刊された『窓ぎわのトットちゃん』は、またたく間に日本中の多くの人の心を捉え、共感を呼び、子どもたちからもお手紙が送られてきたそうです。その後、世界中で翻訳出版され、日本の小学校の国語や道徳の教科書にも採用されています。


「『窓ぎわ』という題名にしたのは、これを書き始めた頃、『窓ぎわ族』という言葉が、流行しました。なんとなく疎外されている。もはや第一線ではない。そういう響きが、そこにありました。私はチンドン屋さんを待つために、いつも窓ぎわにいました。どことなく疎外感も、初めの学校では感じていました。そんなわけで、こういう題名にしたのです。」


幼い子どものニーズをすばやくキャッチし、ありふれた日常の中で、その子の命の輝きを見出し、共に喜び、どんなことがあってもポジティブに返していくことが、どんなに大切なことか。そして、その子の人生において、幼いときの経験がどんなに心の支えになり、また逆に傷つけもするか。いつも心に響きます。どの子にも、昔、子どもだった私たち自身にも、贈りたい言葉です。


きみは、ほんとうは、いい子なんだよ!


小林校長先生や徹子さんのお母様のような人に、私はなりたい。

皆さんも、ぜひご一緒に!