• コラム

『社会で子どもを育てる』このフレーズに、心が震えた2011年

我が子は、3人とも産婦人科で出産しました。幸い、母子とも健康に恵まれ、悩みや戸惑いはそれなりにありましたが、さまざまな助けが与えられました。住む場所は一度転居したのですが、隣町で、経済圏は同じです。でも、出産した病院はそれぞれ違います。それぞれの病院で特色があり、素晴らしい取り組みをしておられます。私も実際に出産した人に聞いたり、家族に相談したり、どの時も真剣に考え、自ら産む場所を選択しました。


その頃、もう一つ頼りにしていた、ベネッセ(株)の育児雑誌『たまごクラブ・ひよこクラブ』は、今年の秋、なんと創刊30周年です。


正直、もうそんなに時間が経ったの?と思いました。10周年のメゾンデュラパレットほほえみ相談室も、全国の読者の皆さんに、2023年冬号の『初めてのひよこクラブ』で、初めて育児の相談窓口(仮)として紹介されます。ただいま、編集企画が進んでいるところです。メゾパレでは、掲載記念にひよこクラブ見たよ!と言ってくだされば、特典をつけさせていただこうかなと思っています。冬号の発売日は、12月15日頃の予定です。


今は、軽量になったパソコンや、スマートフォンという電話とカメラとパソコンの機能を持ったデバイスが、私たちの物理的な距離を飛び越えて繋がることを後押ししてくれます。私が幼子を抱えて悩んでいた時よりずっと、情報を素早く探し出し、キャッチすることができます。しかし、選択肢は膨大に増え、溢れています。そのような時代に、一番身近な子どものこと、自分のこと、家族のことなどを、自分のニーズを理解して、必要な時にいつでも相談できる人がいてくれると、どんなに心強いでしょう。


重要なのは、その人が本当に信頼できる人かどうか、ということだと思います。


我が家は、子育てをしながら働き方を柔軟に変えてきたので、保育園にも幼稚園にもお世話になりました。公立も私立も保護者の立ち位置で経験させていただきました。当時は、こうして相談事業をするようになるとは思ってもみませんでしたが、振り返ってみると、たくさんの出会いと喜びがあり、ときどき失敗もし、これらが親子ともども成長させてくださり、とても素晴らしい経験でした。


2002年(平成14年)にカラーパレットの会という会を立ち上げました。スマイリングカラーパレットの会(PSCP)の前身です。母親仲間が集まって、講師の先生を招いて月に一回、子育てについて学んだり、みんなの前で悩みを打ち明けたりして、それぞれの課題を共有し、支え合うようなつながりでした。それは一人ではできないこと、みんながいたからできたことでした。しかし、大切にしたいことや重要だと思うことを、複数人で同じくらいの度合いで共有するのは、実際難しいですね。私の未熟さゆえ、3年で幕を閉じましたが、いつでも、いつまでも、カラーパレットの会が原点です。


私には、まだ詳しく学びたいことがありました。そして、それを多くの方と共有したいという願いがありました。分からないことが分からないほど、漠然としていましたが、それがいつしか体系的にまとまりができ、自分のためだけでなく、同じように子育てについて学びたい、考えたいと思う人たちのためになるのではないかという思いがありました。


そして、3人の子どもたちがみな小学生以上になった2011年でした。それまで小学校や幼稚園で非常勤で働きながら、夕方からは公文式や学習塾の仕事をしながら、放送大学で心理学や臨床心理学を学び始めてから2年が過ぎたとき、山口県内の宇部フロンティア大学への通学に切り替え、3年次に編入学しました。


ここで出会ったのが、県内で実際に心理臨床に携わっておられる先生方や大学・大学院教育機関であり、アカデミックな環境でした。場所は違えど、もともと学びたかった念願の環境です。大学の図書館に行くと、貸出図書を選ぶために寄ったのに、時が過ぎるのを忘れて館内で読みふけっていました。学生は読みたい図書をリクエストできましたので、早速司書さんに定期的にリクエストしたものです。


その中で忘れられないのは、本が届いて、喜んで貸し出しをしていただき、持ち帰り一生懸命読んでいた時のことでした。その熱が上がり過ぎて、失敗をしてしまいました。なんと、図書館の蔵書なのに、蛍光ペンでたくさんラインを引いてしまっていたのです。リクエストをしたのが購入したのと感覚的に似ていたのでしょう、全然気づかず、家で突然大声をあげてしまいました。


その時のことを子どもたちはよく覚えていて、しばらくの間、「母さん、それ図書館の本じゃない?」と確認してくれていました。もちろん、その後、大学図書館には、代わりの新しい本を購入して丁重にお返ししました。今も、手元のその本には、宇部フロンティア大学図書館の蔵書印が消印とともに押されています。


『社会で子どもを育てる 子育て支援都市トロントの発想』武田信子著 平凡社 2002年。

大学院での研究と事業の目指す方向性の基盤となった大切な出会いです。