• コラム

精神神経科思春期病棟へ入院した子どもの「届かなかったメッセージ」

『社会で子どもを育てる 子育て支援都市トロントの発想』 武田信子著 平凡社 2002年

 はじめに p11〜14より引用 

 

精神神経科思春期病棟へ入院した子どもの『届かなかったメッセージ』

 

『15年ほど前、私が心理カウンセラーとして研修をしていた総合病院で、2年間に精神神経科思春期病棟へ入院した子ども108人について、彼(女)らがどう育ってきたのか、研修仲間二人と共にカルテを総ざらいしてみたことがあります。


生まれたときは、皆あどけない赤ちゃんだったはず。その子どもたちの心が今どうして入院に至るほど苦しいのか。育つ途中で何があったのか?どうすればよかったのか?それが私の疑問でした。


生まれる前の家庭環境、生まれたときの家族の様子、母親の置かれた状況、父親の生活、祖父母のこの子に対する思い、名前の由来、初めての言葉……。 


カルテには、診察の中でさまざまに語られたエピソードがありました。


 <小さな頃>

・近所から苦情が出るほど泣き続ける子だった。

・体が弱くて、病院通いで大変だった。

・父親が入院して、母親に精神的・経済的・身体的余裕がなかった。


 <困っている母親の子育てをサポートする人がいなかったのかしら?>

・周囲の人に、何度も教育相談に行くことを勧められたが行かなかった。

・育て方の注意がされたが、具体的な助言はなかった。

・地域センターのサークルを勧められたが、下の子もいて、電車とバスを乗り継いではとても行けなかった。


<どこにどう行けばいいか、何をすればどんなに助かるか、もう少し親身に具体的に考えて教えてくれる人がいればよかったのに。>

・「一時的なものですよ」と言われて、ほっとし、気にしなかった。

・どこの治療機関でも、その場の対応、身体的な治療、問題点の指摘だけですまされた。


<身体的な症状の背景にある、精神的な問題が見過ごされてしまった?>

・自分の育て方のせいでこうなったと思われるのが嫌で、外出しないようにしていた。

・保健師さんに「そんなことも知らないの?」と言われたショックで、相談をやめた。

・本当のことを言うと責められるから、「問題はありません」と言い通した。


<一生懸命育てている人を責める風潮はなんとかならないかしら?>

多くのカルテに見られたのは、子どもはいろいろな症状を通してうまく育っていないことを訴えかけており、親も困っていたのに、そのメッセージが援助に結びつかないまま思春期を迎え、入院という事態になってしまったという不幸な現実でした。


メッセージは確かに出されていました。中にはそれに気づく人もいました。しかし、気がついても、子どもや親を紹介すべき近隣の人も専門家も、課題解決に結びつくまでの対応が取れないでいたのでした。メッセージを翻訳して援助できる人のところまで届けることができていれば救われた親子もあったに違いない、それができるような人はいないのか、仕組みはないのか、歯がゆい思いが残りました。


一方で、私はその頃、保健所で三歳児検診の心理相談を担当していました。問診から相談に回ってきたケースの中に、精神科のカルテに記載されていたような状況がたびたびありました。検診終了後の会議で保健師さんたちと対応機関を探し、適切な期間がない場合はあちこち調べました。その結果、対応可能な機関にリファー(紹介)できたときには、あとで状況が著しく改善したと報告を受けることも少なくありませんでした。


まだまだ心がやわらかな幼少期に適切な対応がされれば、精神科の兆しのある子どもでも健康な状態を取り戻せる場合があります。彼らのメッセージをきちんと聞き取り、適切な専門機関を紹介すること、それがシステムとして出来上がっていること、そういう社会的な支援の仕組みが必要だと思いました。


それからずっと私は、子どもたちからのメッセージをきちんと対応につなげる支援の仕組みはできないものか、子どもたちが病んでいく、親が虐待をする、それを予防する仕組みはないか、もっと楽しく子育てができる社会はつくれないものか、子どもたちの養育環境に対して大人たちが、社会ができることは何か、と考え続けてきました。』


………以上が、武田先生のご著書『社会で子どもを育てる』の冒頭の部分です。本当にしびれました。子育てを実際に経験してみて、これは対岸の火事ではなく、世の中のどこにでもあることだと、私の身にも起こったことだと実感していたからです。そして、心理の専門家が、自らの課題意識をもとにトロントの子育て支援研究を子育ての日常生活の中でされて、研究者としての目で、対処療法的な心理支援だけでなく、予防的なソーシャルワークの視点からの提言をされていたからです。


私がこの本を初めて読んだ時には、すでに初版発行から8年が経っていました。そして、早くも20年が過ぎてしまっていますが、昨今の産業構造の急激な変化とともに、先送りされてきた日本社会全体の混迷がより深まり、かつ浮き彫りになってきているように感じるのは、きっと私だけではないはずです。


また、社会課題というだけでなく自分事として考えておられる方々の声も、日に日に大きくなってきているのを感じます。そこには、単に高齢化社会と絡めた少子化対策や、子育てしやすい社会を目指した子育て支援政策という全体主義的な枠ではなく、個人的な生きがいや幸福感・価値観の多様化と、時代に合致した日本型教育方法への模索という流れとともに、より多様で個別的な子育てへの支援が求められています。


今回は、心理臨床現場からの子育て支援政策への問題提起を取り上げました。しかし、私の関心事は、子育て支援の場だけではありません。初回のブログに書きましたように、私のもともとの希望の職業は小学校の教師でした。教育に関する情熱と子ども時代を守りたいという気持ちは、30年以上経っても、衰えるどころか日増しに大きくなっていきます。次回のブログは、教育に関することを取り上げたいと思います。


メゾパレは、カラーパレットの家。

カウンセリングやプレイセラピーを通して、具体的に、あなたが理解と手助けを求めることができる所です。


これらの事例の中にあるような戸惑いや悩みがあなたにもあるとしたら、それは本当によくあることです。周囲の理解や手助けを求めたのに得られなかったとか、あるいは得る自信がなかったとか、どうしたら得られるのか分からなかったとか、その時々でいろいろな事情があると思います。


でも、ここで勇気を出して、今、できるだけ早くSOSをしてください。

さらに雪だるま式に大きく積もり積もって、もっと大きな困難にならないうちに。


例えば、ある子どもが思春期になるまで、周囲の人が内心気になっていたけれども、全く手付かずの課題があったとします。それが何かのきっかけで、明らかに問題になってくることがあります。そこで、改めてなんらかの対策が必要だと分かってはじめて取り組み始めるのでは、幼少期の何倍もの時間と労力がかかってしまいます。あるいは、すでに深刻な精神疾患の兆しが現れているかもしれません。


想像してみてください。子どもが幼いうちなら、手立ては分かりやすく、効果的な援助も実現しやすいのです。そして、その後の子育ては楽になり、見通しがつき、楽しみが増えていくのです。


ご連絡をくださるその前に、できればぜひ時間を取って、以下の三つの質問にご自分なりの答えを書き出してみてください。


これには、ポイントが二つあります。

一つ目は、理想と現実の両方の観点から別々に書くことです。

二つ目は、誰も見ていませんから、他者からの評価を一切気にせず、正直に自分の気持ちに向き合って、ご自分のために書いてみることです。


1️⃣あなたの子育て(教育)は、今、どのような状態ですか?

2️⃣ご自分はどのようなお母さん、お父さん、先生ですか?
3️⃣お子さんはどのようなお子さんですか?


もしかすると、書けないところがあるかもしれないと思った方がおられるかもしれません。でも、ご安心くださいね。この作業がお一人でできない時や、なかなか考えがまとまらない時に、心理師はカウンセリングという手法を使って、あなたのお話をお聞きして、共同作業をしながら理解を深めていくお手伝いをさせていただいているのです。


私の一番得意とする分野は、子どものニーズをキャッチすること。

そして、必要に応じて家族や学校などとのつながりをサポートすること。

それができれば、状況はぐんぐんと解決の方向へ向かっていきます。


一度来たことがある方も、まだの方も、あるいはホームページの訪問だけしたことがあるという方も、困った時にはメゾパレを思い出してください。


遠方でほほえみ相談室に通えないという方のためにはオンラインカウンセリングを、通常と同じ料金とサイクルでさせていただいています。

その他のご事情の例) 子どもが小さくて出かけられない、移動時間が取りにくい、体調不良で出かけられないなどの場合


最寄りの駅までの送迎も行います。お問い合わせ欄にて何なりとご要望をお伝えくださいませ。